最適なポートフォリオを見つける理論 前のセクションでは、リスクとリターンの関係を数値で捉える方法を学びました。このセクションでは一歩進んで、「同じリスクで最も高いリターンを得るポートフォリオはどれか」「ある資産の適正なリターンはどれくらいか」を理論的に導く方法を学びます。ハリー・マーコウィッツの効率的フロンティア理論と、ウィリアム・シャープのCAPM(資本資産評価モデル)は、いずれもノーベル経済学賞を受賞した現代投資理論の礎です。
効率的フロンティアとは 効率的フロンティア(Efficient Frontier)
あらゆる資産の組み合わせの中で、同じリスク水準において最大のリターンを提供する(あるいは同じリターン水準において最小のリスクとなる)ポートフォリオの集合です。グラフ上では左上に凸の曲線として描かれます。この曲線上のポートフォリオは『効率的ポートフォリオ』と呼ばれ、曲線の下側にある組み合わせはすべて非効率(同じリスクでより高いリターンが得られる別の組み合わせが存在する)です。
効率的フロンティアの考え方は直感的に理解できます。たとえば、100種類の株式があるとします。それらをさまざまな比率で組み合わせると、無数のポートフォリオが作れます。各ポートフォリオのリスク(横軸)とリターン(縦軸)をプロットすると、散布図のような形になります。このとき、散布図の上端を結んだ曲線が効率的フロンティアです。合理的な投資家はこの曲線上のポートフォリオだけを選択肢として検討すべきです。
効率的フロンティア 個別資産 ポートフォリオ 最適ポートフォリオ
図13.2: 効率的フロンティアと個別ポートフォリオの分布。曲線上のポートフォリオが最も効率的であり、曲線の内側(右下)にある点はすべて改善の余地があります。投資家は自身のリスク許容度に応じて、曲線上の任意の点を選ぶことができます。 ここで無リスク資産(国債など)を加えると状況がさらに明確になります。無リスク資産の点から効率的フロンティアに接線を引くと、その接点が「接点ポートフォリオ」(市場ポートフォリオ)となります。この接線を資本市場線(CML: Capital Market Line)と呼び、すべての投資家はCML上の点(無リスク資産と市場ポートフォリオの組み合わせ)を選ぶのが最適とされます。
CAPM(資本資産評価モデル) CAPM(Capital Asset Pricing Model)
個別資産の期待リターンを、その資産の市場全体に対する感応度(ベータ値)によって説明するモデルです。1960年代にシャープ、リントナー、モッシンが独立に開発しました。CAPMによれば、合理的に価格付けされた資産のリターンは、無リスク金利にリスクプレミアム(ベータ×市場リスクプレミアム)を加えたものに等しくなります。
CAPMの基本式
E(Ri) = Rf + βi × (E(Rm) − Rf) (E(Ri): 資産iの期待リターン、Rf: 無リスク金利、βi: 資産iのベータ値、E(Rm): 市場ポートフォリオの期待リターン)
この式が示しているのは、個別資産のリターンは「無リスク金利 + リスクの対価」で決まるということです。ここで重要なのは、CAPMが評価するリスクは『市場リスク(システマティック・リスク)だけ』であるという点です。分散投資で消せる個別リスク(非システマティック・リスク)に対しては、リターンの上乗せは得られないと考えます。なぜなら、合理的な投資家は十分に分散されたポートフォリオを持つはずであり、個別リスクはすでに消去されているからです。
ベータ値の意味と活用 ベータ値(Beta / β)
市場全体(たとえばTOPIXや日経平均)が1%動いたとき、その資産がどれだけ動くかを示す感応度です。β=1.0なら市場と同じ動き、β=1.5なら市場の1.5倍動き、β=0.5なら市場の半分しか動きません。β<0の資産は市場と逆方向に動きます。
ベータ値の計算式
βi = Cov(Ri, Rm) / Var(Rm) (Cov: 共分散、Var: 分散、Ri: 資産iのリターン、Rm: 市場リターン)
A社のβ=1.3、B社のβ=0.7。無リスク金利が1%、市場の期待リターンが7%のとき、CAPMによる期待リターンは?
A社: 1% + 1.3 × (7%−1%) = 1% + 7.8% = 8.8%。B社: 1% + 0.7 × (7%−1%) = 1% + 4.2% = 5.2%。ベータが高いA社はより多くの市場リスクを負っているため、投資家はより高いリターンを要求します。もしA社の実際の期待リターンが8.8%を超えていれば割安(アルファがプラス)、下回っていれば割高と判断できます。
市場リスク(システマティック・リスク)と個別リスク(非システマティック・リスク) 資産のリスクは大きく2種類に分けられます。市場リスクは景気変動、金利変動、地政学リスクなど市場全体に影響するもので、分散投資では消せません。一方、個別リスクは企業固有の不祥事、新製品の失敗、経営者交代など特定の銘柄にしか影響しないもので、多くの銘柄に分散することでほぼゼロにできます。研究によれば、20〜30銘柄程度に分散すれば、個別リスクの大部分は解消されるとされています。
CML(資本市場線)はリスク指標に『標準偏差(総リスク)』を使い、効率的ポートフォリオのリターンを示す SML(証券市場線)はリスク指標に『ベータ値(市場リスクのみ)』を使い、すべての個別資産の期待リターンを示す CMLの上にあるポートフォリオは効率的、SMLの上にある資産はアルファがプラス(割安) 実務では、SML上の位置を調べることで個別銘柄の割安・割高を判断するCAPMにおいて、ベータ値が0.8の銘柄について正しい記述はどれですか?(無リスク金利2%、市場期待リターン8%)
A この銘柄の期待リターンは8%であるB この銘柄の期待リターンは6.8%であるC この銘柄は市場より大きく変動するD 分散投資ではこの銘柄のリスクを低減できない
効率的フロンティアの「下側」に位置するポートフォリオについて、正しい記述はどれですか?
A 最もリスクが低いポートフォリオであるB 同じリスクでより高いリターンが得られる別の組み合わせが存在するC 無リスク資産だけで構成されているD すべての投資家が選ぶべきポートフォリオである
CAPMにおいて、分散投資で消すことのできない「市場リスク(システマティック・リスク)」の例として最も適切なものはどれですか?
A 特定企業の不祥事による株価下落B 新製品の開発失敗による業績悪化C 景気後退による株式市場全体の下落D 経営者の交代による経営方針の変更