「この株は割安?割高?」を数字で判断する
ある企業の株価が5,000円だとします。これは「高い」のでしょうか、「安い」のでしょうか? 実は、株価の絶対額だけでは割安・割高を判断できません。株価が1,000円でも割高な銘柄はありますし、10,000円でも割安な銘柄はあります。大切なのは、企業の利益や資産と比較して「相対的に」高いか安いかを測ることです。このセクションでは、プロの投資家も日常的に使う主要なバリュエーション指標を学びます。
PER(株価収益率)— 利益から見た株価水準
PER(Price Earnings Ratio / 株価収益率)
株価が1株あたり利益(EPS)の何倍まで買われているかを示す指標です。「この企業の利益の何年分を株価として支払っているか」と読み替えることもできます。PERが低いほど利益に対して株価が割安、高いほど割高と判断される傾向があります。
PERの計算式
PER(倍) = 株価 ÷ 1株あたり利益(EPS)
たとえば、株価が2,000円でEPSが100円の企業のPERは20倍です。これは「この企業の年間利益の20年分を株価として支払っている」ことを意味します。日本の東証プライム市場の平均PERは概ね13倍〜17倍の範囲で推移してきました。ただし、PERの「適正水準」は業種によって大きく異なります。
| 業種 | PERの目安 | 特徴 |
|---|
| 銀行・保険 | 8〜12倍 | 成熟産業で成長期待が低いため、PERは低め |
| 製造業(自動車・機械) | 10〜15倍 | 景気サイクルに連動しやすい |
| 食品・日用品 | 15〜25倍 | 業績が安定しており、ディフェンシブ銘柄 |
| IT・ソフトウェア | 25〜40倍以上 | 高成長期待があるため、高PERが許容される |
| バイオ・創薬 | 50倍以上 or 赤字 | 将来の収益化を期待した投資が中心 |
PERが低い(たとえば10倍以下)場合は、市場がその企業の将来の成長をあまり期待していないか、何らかのリスクを織り込んでいる可能性があります。逆にPERが極端に高い場合は、将来の大幅な利益成長を期待して「先取り」して買われている状態です。どちらが良い・悪いではなく、「なぜそのPERなのか」を考えることが重要です。
A社(食品メーカー)の株価は3,000円、EPSは200円でPERは15倍。同業のB社は株価4,000円、EPSは160円でPERは25倍です。
同じ食品業界でもPERに10倍の差があります。B社のPERが高い理由として、海外展開による成長期待が高い、利益率が改善傾向にある、ブランド力が強い、などが考えられます。A社が「割安」に見えても、成長が停滞しているなら妥当かもしれません。PERの数字だけでなく、背景にある成長ストーリーを読み解くことが大切です。
PBR(株価純資産倍率)— 資産から見た株価水準
PBR(Price Book-value Ratio / 株価純資産倍率)
株価が1株あたり純資産(BPS)の何倍まで買われているかを示す指標です。企業が持つ純資産(資産 − 負債)に対して、市場がどれだけの価値を認めているかを表します。
PBRの計算式
PBR(倍) = 株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS)
PBRが1倍ということは、株価と1株あたり純資産が同じ水準にあることを意味します。理論上、PBR 1倍は「会社を解散して資産を株主に分配した場合に、株価と同じ金額が戻ってくる」ラインです。
PBR 1倍割れ
PBRが1倍を下回る状態のことです。これは、市場が企業の純資産価値以下でしか株を評価していないことを示します。2023年、東京証券取引所はPBR 1倍割れの企業に対して資本効率の改善計画を開示するよう要請し、大きな話題となりました。
C社の株価は1,200円、BPSは1,500円です。PBRは0.8倍で、いわゆる「PBR 1倍割れ」の状態です。
PBR 0.8倍は「企業の持つ純資産1,500円分を、市場では1,200円でしか評価していない」状態です。これは割安のシグナルかもしれませんが、逆に考えると「市場がこの企業の資産の質や収益力に疑問を持っている」可能性もあります。不良資産を多く抱えている、ROEが低い、将来の利益見通しが暗いなどの理由でPBRが低いケースもあるため、PBR 1倍割れ=即買い、とは限りません。
PSR・EV/EBITDA — その他の重要指標
PSR(Price Sales Ratio / 株価売上高倍率)
時価総額を年間売上高で割った指標です。赤字企業でも算出できるため、まだ利益が出ていない成長企業の評価に使われます。PSR = 時価総額 ÷ 年間売上高。
EV/EBITDA
企業価値(EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金)を、EBITDA(営業利益 + 減価償却費)で割った指標です。資本構成の違いを排除して企業の「稼ぐ力」を比較できるため、M&A(企業買収)の現場でも重視されます。
PERやPBRだけでは評価が難しい企業もあります。たとえば、急成長中のSaaS企業は赤字でもPSRで評価されますし、設備投資が大きい製造業はEV/EBITDAの方が実態を捉えやすい場合があります。複数の指標を組み合わせて使うことが、バリュエーション分析の基本です。
※ 代表的な業種の平均的なバリュエーション水準(参考値)
図5.1: 業種別の主要バリュエーション指標比較(東証プライム市場)- PER: 黒字企業の利益ベースの評価に最適。同業他社比較が基本
- PBR: 資産価値ベースの評価。金融業や不動産業で特に重要
- PSR: 赤字の成長企業に使う。売上の成長率とセットで判断する
- EV/EBITDA: 資本構成を排除した比較に有効。M&Aの目安にもなる
- 単一の指標で判断せず、複数の指標を組み合わせて総合的に評価する
- バリュエーション指標は「株価の割安・割高」を客観的に測るための道具
- PERは利益ベース、PBRは資産ベース、PSRは売上ベースの評価指標
- 「適正水準」は業種や成長ステージによって大きく異なる
- PBR 1倍割れは東証も問題視しており、日本株投資の重要テーマとなっている
- 1つの指標に頼らず、複数の指標で多角的にチェックすることが重要
株価が3,000円、1株あたり利益(EPS)が150円、1株あたり純資産(BPS)が2,500円の企業について、PERとPBRの組み合わせとして正しいものはどれですか?
PER 8倍の銀行株とPER 35倍のIT株があります。PERだけで「銀行株が割安」と判断することが危険な理由はどれですか?
PBRが0.8倍の企業について、最も適切な解釈はどれですか?